このページは、「倫理」や「現代社会」などの授業を実践している中で思うことや教材研究での発見などを紹介することで、今後の授業実践をともに考えていくことを目的としています。
授業における「問い」をめぐって (抜粋)
1.「問い」と「具体的な社会的事象」の関係
平成 30 年告示の学習指導要領(以下、「新学習指導要領」)では、配慮事項として「生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」が示された。この点に関わって、新学習指導要領で新たに設置された公民科の科目「公共」でも、内容の取扱いにおいて以下のような配慮事項が示されている。
生徒の学習意欲を高める具体的な問いを立て,協働して主題を追究したり解決したりすることを通して,自立した主体としてよりよい社会の形成に参画するために必要な知識及び技能を習得できるようにするという観点から,生徒の日常の社会生活と関連付けながら具体的な事柄を取り上げること。(学習指導要領 p.83:下線部筆者)
授業改善にあたっては、「問い」と「答え」の間をつなぐ学習活動、すなわち追究の過程で見方・考え方を働かせ、知識・技能を活用して考え、判断し、表現する学習活動を組織するのが基本となる。
ここで確認しておきたいのは、新学習指導要領のいう「問い」が一体何を指しているのかということである。「問い」という言葉は多義的である。教師による問いかけとしての「問い」、子ども自身が創り出すものとしての「問い」など、文脈に応じてさまざまな意味を持つ。したがって、新学習指導要領において「問い」がどのような意味で用いられているかを吟味しなければ、混乱が生じてしまう危険性がある。
では、新学習指導要領のいう「問い」とは何か。
・・・
3.なぜ「問い」(学習課題)が重要なのか
ここまで、授業改善において重要となる「問い」(学習課題)とは何か、そして「問い」(学習課題)を具体的に担う「社会的事象」を教材化する際の留意点について述べてきた。最後に、そもそもなぜ「問い」(学習課題)が重要なのかを考えたい。「問い」(学習課題)を提示することによって、生徒の思考・判断・表現が促されるという側面があるのはもちろんだが、もう一つ重要なことがある。それは、「問い」と社会的な見方・考え方は表裏一体であるということだ。
対話とスピード重視の授業デザイン -「面白い」授業を目指して- (抜粋)
1 はじめに
私はいつも「面白い」授業がしたいと考えている。授業が始まる前や授業が終わった休み時間、生徒が授業の話について会話をしているのを見ると嬉しく思う。乱暴な言い方をすれば、「面白い」授業ができれば、新学習指導要領の評価の観点にある「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習に取り組む態度」は自ずとついてくるとさえ思うくらいだ。では、「面白い」授業には何が必要なのだろうか。私は以下の三点を考えた。
(1)interestingな話題提供ができる授業
授業はお笑いのネタとは違う。笑いがおこる授業と「面白い」授業はイコールではない。「面白い」授業を目指してはいるが、「ウケる」ことは授業の目的ではない。単なる笑いではなく、興味深さ-今まで知らなかった知見を得ることによる面白さ-であったり、今まで無批判に考えていたことと違うものの考え方を得ることにより、思考が揺さぶられることを「面白い」と感じるのではないか。そのためには、興味深く感じられるような説明はもちろんのこと、わかりやすい例えや身近に引きつけて考えることのできる例など、授業と自分の生活や思考がつながっている実感を感じる話題を提供したい。
(2)「わかる」から「面白い」となる授業
生徒にとって、分からない苦手な授業よりも、分かるしできる授業の方がその科目を面白く得意だと感じ、前向きに授業に取り組もうという意欲につながるのではないか。丸暗記したから定期考査で点数が取れた、ではなく、日々の授業の中で「わかる」、「できる」と感じさせられるようにしたい。(3) 飽きさせない工夫を取り入れた授業授業は、誰しもが関心を持って受けているわけではない。いくら授業者が「面白い」と感じる話をしていても、生徒にとっては一方的に話を聞かされていると感じることもあるだろう。それは、倫理という科目の専門家で豊富な知識を持つ教員ならまだしも、決して専門家とはいえない私にとっては、手を変え品を変え……という手段を取らなくては、生徒が飽きてしまうのではないかという危惧を感じるため、様々な方法を用いて、授業を工夫したい。
「対話すること」を探究する授業の試み―プラトン対話篇『ゴルギアス』(452E-458B、508B-511A)を教材として―(抜粋)
1 はじめに
平成30年度に告示された学習指導要領における「主体的・対話的で深い学び」は、確かな学力を育成するための根幹に位置する学びのあり方である。授業では、この学びのあり方に基づいた授業実践を展開することが求められる。中でも「対話的」である授業は、多くの教科において重要となる。高等学校公民科「倫理」において「対話的」な場面を取り入れた授業を実践する場合、ペアワークやグループワークなどによる話し合いが想定される(北海道高等学校「倫理」「現代社会」研究会編2017)。「対話的」な場面を取り入れた授業は、学習者が自己の考えだけでなく他者の意見を参考とすることで学びが深まったり、学ぶことへの興味や関心が高まったりすることで、主体的に学習に参加する姿勢につながる可能性を持っている。このことから、「対話的」な場面を取り入れた授業は、学びを深め学習者の興味や関心を引き出すために重要といえる。しかし、これまで「対話的」な場面を取り入れた授業の実践(藤井・土屋2018)はみられるが、対話のあり方そのものを問い、探究することを中心に据えた授業の実践はみられない。「互いに意見を言い合えば対話なのか」、「他者の意見を取り入れるとはどのようなことか」など、対話のあり方の理解を深めた上で、対話の活動に取り組むことが必要ではないだろうか。高等学校公民科「倫理」は、「対話すること」そのものを学習者に問うことができる。なぜならば、先哲を手掛かりとして「対話すること」そのものを考えさせる授業展開が可能なためである。対話がどのようなあり方で成立しているかを考えることは、他者と対話する様々な場面において、どのような対話を成立させることが適当であるかを判断する力につながる。本稿は、高等学校「倫理」の授業として「対話すること」をテーマに、対話のあり方について理解を深める授業の開発を目的にしている。教材は、プラトンの著した『ゴルギアス』という対話篇を用いる。これを教材とする理由は、テキストの中で相手を説得することに主眼を置く対話や、相手との合意をつくりだす対話など、対話のあり方の理解を深める一つの方法といえるからである。授業は、授業者が説明する場面、ペアやグループで活動し表現する場面、学習者が自分で思考し表現する場面の3つから成る。本稿における授業の展開として最もユニークな部分は、学習者が思考した内容を表現する場面の設定である。この点については、「4 授業計画の内容」の中で述べる。
テーマ 「日本における納税の意義とは何だろうか?」
・単元名
「第6章 現代の経済社会と政府の役割」
・単元の目標
(1)経済の主体と経済活動の意義,現代の経済社会の変容について理解を深める。
(2)経済成長や景気変動と国民福祉の向上の関連について考察する。
(3)金融,政府の役割と財政,租税について理解を深め,日本の経済政策の方向性を考察する。
・授業について
(1)本時の目標
・我が国における租税の役割と納税の意義について、ICT機器を用いて考察することができる。【思考・判断・表現】
・税を通してこれからの日本経済の在り方を大観することを通して、我が国の主権者として社会に参画していくための素地を養おうとしている。【主体的に学習に取り組む態度】
・指導論 ~教科書「で」教えるために~
授業をするにあたり心がけていることは資料の提示と教科書の使用方法である。授業冒頭で適切な資料を提示し、生徒にゆさぶりをかけることで疑問が生まれ、その疑問を解決していく、ということを授業の流れとしている。よって、教科書を輪読したり、(教師主導で)マーカーを引かせる等いわゆる「教科書『を』教える」といった授業は極力避けている(自身の高校時代の記憶から、大学入試を見据えた進学校ではこの場合ではないと思われるが…)。また、教科書「を」教えるとなると、極論ではあるが映像授業やAI、ペッパーくん(ロボット)でも授業が可能であると考える。ではどうすれば教科書「で」教えることになるのか。次の点を意識して授業実践をしている。
(あ)教科書を「アイテム化」し、課題解決のためのヒントとして用いる。(検索ツール)
(い)グラフ、統計等の「資料集」として用いる。(本校のように資料集を購入しない場合)
この2点を4月から意識してドリル化させることで、生徒は教科書を使用する目的や意図が浸透したように感じている。
・教科論
本時のスライド資料や板書の構成は、教科書の他、以下を使用した。
https://www.nta.go.jp/taxes/kids/index.htm 国税庁ホームページ「税の学習コーナー」(教員向け)
最近では、行政機関が積極的に授業用の資料を提供していただけることが多く、大変助かっている。教科書よりも平易な文章で、また身近な例で解説してくれているため、本校生徒にとっても理解しやすいと思われる。
テーマ 「日常の授業の一コマにChromebookを活用する」 【公民科 現代社会より】
~知識獲得(板書)と情報機器を使い分け、良い意味で「普通(日常)」の授業を目指す~
○中学校社会科の公民分野における既習事項を活用して知識を獲得し、それらを自分の言葉で表現できる。
○自分たちの力で情報や知識を獲得し、課題解決を図る力を身に着け、現代社会を生き抜く素地を養う。
○課題解決のための方法と、情報機器との向き合い方を「協働」を意識しながら学び、日常の生活に応用できる。
(1)本時の目標
・議院内閣制について、我が国の制度に着目し、情報機器を用いながら必要な知識(情報)を獲得することができる。【知識・技能】
・情報機器を効果的に用いることで、自分の力で適切な情報を取捨選択できる素地を養う。【学びに向かう力】
2021年12月27日(火)
「公共」の学びを踏まえた授業実践として
「戦後経済の歩みから安定した経済成長を考える」
1.単元の授業計画
本時の授業は,本校の授業計画(シラバス)に位置づけられた「第2篇 現代の経済 第3章 現代経済と福祉の向上」((教科書)宮本憲一ほか(2021)高校政治・経済新訂版,実教出版)の単元のまとめ(「1戦後復興と経済成長」の後半部分から「2 経済の停滞と再生」(教科書pp.149~154.))を内容としている。単元の授業計画は,以下のとおりである。
第2篇 現代の経済
第3章 現代経済と福祉の向上
1 戦後復興と経済成長 …1h
単元のまとめ
2 経済の停滞と再生(1 戦後復興と経済成長の後半部 …1h 本時
分を含む)
3 日本の中小企業と農業 …1h
4 国民の暮らし …1h
5 環境保全と公害防止 …1h
6 労使関係と労働条件の改善 …1h
7 社会保障の役割 …0.5h
単元のまとめ学習(3 日本の中小企業 ~ 7 社会保障の役割) …0.5h
2.実施日時・実施場所・対象者
実施日 2021年12月16日(木) 7校時(15:15-16:05)
実施場所 204教室(5階)
対象者 2学年 理系クラス 40名
3.授業のねらい
授業のねらいは,以下の3点である。
① 「安定した経済成長のために必要な政策は何か」について,学んだ内容を踏まえて自分の考えを表現できたか。
② スタグフレーションやケインズの有効需要政策及びフリードマン(マネタリズム)のネオ・リベラリズムの知識を踏まえて,自分の理解を表現できたか。
③ 経済政策について,これまで学習した内容(金融政策・財政政策)を踏まえて,自分の考えを表現できたか。
本時の学習において最も重視しているねらいは①である。①は,本時のまとめ(戦後日本における経済の歩みの理解)の問いであるとともに,これまで「政治経済」の授業で学習してきた内容を活用(金融政策・財政政策)しながら,これからの安定した経済のあり方について自身の理解を表現できるかが問われる。具体的には,学習者は、不況期において税金削減や補助金を増やすなど政策を個別に指摘して終わるのではなく,安定のために必要な政策の留意点や中心となる政策と他の政策との関連性についての記述が求められる。ワークシートの記述は,このような理解が深まっている部分があるかがポイントとなる。
授業のねらい②及び③は,①の問いを記述するために必要な知識の定着及び理解の到達目標といえる。別な言い方をすれば,これからの日本の経済成長を考え,自身の意見を表明するために必要な材料(知識・理解)ともいえる。
2021年12月27日(火)
「公共」の学びを踏まえた授業実践として
「冷戦終結は何をもたらしたか」“Reading Like a Historian”(歴史家のように読む)
1.単元の授業計画
本時の授業は,本校の授業計画(シラバス)に位置づけられた単元「第5章 現代の国際政治」((教科書)宮本憲一ほか(2021)高校政治・経済新訂版,実教出版)の「3 現代国際政治の動向」の後半部分である「東西冷戦の終結」及び「流動化する国際秩序」(教科書pp.96-98.)を内容としている。単元の授業計画は,以下のとおりである。
第5章 現代の国際政治
1 国際政治の特質と国際法 …1h
2 国際連合と国際協力 …2h
3 現代国際政治の動向 「東西冷戦の成立」「平和共存と多極化」ほか …1h
「東西冷戦の終結」「流動化する国際秩序」 …1h本時
4 核兵器と軍縮 …1h
5 国際紛争と難民 …1h
6 国際政治と日本 …1h
【政治分野】単元のまとめ テーマ学習「国家における正義とは何か」 …3h
2.実施日時・実施場所・対象者
実施日 2021年9月21日(火) 7校時(15:15-16:05)
実施場所 208教室(5階)
対象者 2学年 文系クラス 39名(男17名女22名)
3.授業のねらい
授業のねらいは,次の2つである。
①「冷戦終結は何をもたらしたか」について,学んだ内容を踏まえて自分の考えを記述することができたか。
②他者と協働して課題に取り組むことで“Reading Like a Historian”(歴史家のように読む)という視点による資料の読み取るスキルを高めることができたか。
授業は,「東西冷戦の終結」と「流動化する国際秩序」を項目とし,新冷戦時代から冷戦の終結,そして国際秩序の流動化という歴史的経緯を内容とする。そのため,学びを深めるための資料(新聞記事)の読み取りが重要となる。学習者は,資料を読み取る視点を身につけることで深い学びを目指す。資料を読み取る視点は,“Reading Like a Historian”(歴史家のように読む)である。これは,米国の歴史教育研究者S.ワインバーグが提唱した「歴史家の様に読む」アプローチの基本的な考え方・教授方略にもとづく(中村2013:49)。ワインバーグは,米国スタンフォード大学歴史教育グループ(Stanford History Education Group)の中心メンバーであり,歴史史料を読む中で歴史家の専門的技能を体験,習得させることを盛り込んだカリキュラムの開発を進めている(田尻2016:2)*1。公民科にいて,歴史教育の学びをそのまま受け入れることは適当ではない。ただ,本授業実践における公民科「政治・経済」における歴史的な理解が重要な単元においては,効果があると考える。
2020年9月12日(日)
「倫理」実践授業動画を掲載いたしました。新学習指導要領は、授業の内容だけでなく授業の方法(「主体的・対話的で深い学び」)に踏み込んでいます。このことは、学びの質を高めることにつながる一方で、授業の同質化、画一化を招く可能性も否定できません。授業者は、もう一度「授業とは何か」という原点に立ち返り、授業と向き合うことが求められています。
「倫理」実践授業の動画は、「授業とは何か」「授業で大切なことは何か」という授業と向き合う上で、多くのヒントを与えてくれるものです。
「倫理」実践授業
単元名 「ルネサンス」
授業実践者 矢 倉 芳 則
実施年 2007年
実施校 北海道浦河高等学校
「倫理」実践授業
単元名 「青年期」
授業実践者 矢 倉 芳 則
実施年 2007年
実施校 北海道浦河高等学校